彼はひょっこり事務所に現れて 認定申請したいんだけど、と言った。近所の整形まで行きたいが、タクシーで行くには近すぎて 運転手さんに悪いし、かと言って この足じゃ病院まで歩いて行けないし...と言うので 後日車で送迎する約束をした。
約束の日時に迎えに行くと 玄関に「マジックハウス」と書いてある。気になりながら 家を覗くと部屋中が本でいっぱい、と言うより部屋の壁が全部書棚になっている。すごい本の数だね、と言うと、人生は死ぬまで勉強だからね、とタバコを吹かしながら笑う。
近くの整形に行く数分間で 彼は40年前に離婚して それからは82歳になる現在までずっと独身、娘が一人県外にいるが数年に一回逢うくらいだと話してくれた。病院が混んでいたので、2時間ほどして迎えに行ったら ちょうど会計待ちをしているところだった。隣に座り、気になっていたマジックハウスの看板の話しをしてみると、待ってましたとばかりに彼は満面の笑み。最初は遊びだったんだ、それが趣味になってね、そのうち 仕事になった。だんだん業界で認められて 全国津々浦々を回るようになり、気がついたら貯金ができていた...話しが佳境に入ったところで会計窓口に呼ばれ、その話しは そこで終わってしまった。
帰りの車の中で、あの病院に行きたいと半年前からずっと片想いしていたんだ、と言う。じゃあ今日はめでたく両想いになったのね、と言うと そうだよ、アナタ 愛のキューピッドだね と笑う。
家に着く前に どうして認定申請を思いついたのか聞いてみた。だって孤独死なんかになったら隣近所の人に嫌な思いをさせてしまうし、あまり逢えない娘も父親が寂しく独りで死んだりしたら 責任を感じて一生悔やませてしまうだろう。認定申請して誰かと関わることが今の僕にできる唯一の社会貢献だと思うんだ。
もっと彼と話しをしていたいと思ったが、長時間の通院で疲れた様子だったので また逢う約束をして仕事に戻った。
彼の話し方は独特だった。まだまだ聞きたい、と思わせるような そして言葉の言い回しも粋だった。さすが本物のマジシャンなんだな、と思った。

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