2012年7月31日火曜日

ホルスタイン




Nさんは有料老人ホームの端っこの部屋で過ごしている。一緒に暮らしていたお父さんが亡くなったから、夫婦部屋にひとり、演歌を流して過ごす。目が見えないから楽しみは音楽しかない。おしっこの管がついて、ほとんど話さないし動かないから施設の職員は、植物人間に近いと思っている。
定期受診に娘と一緒に付き合ったとき、娘と子牛の相場について語っていると、「だから、和牛より乳牛がいいと言ったたのに」と酪農家の話になった。経営は私が全部してきたから、今までのように大きくなったんだと言う。それから、会う時は牛の情報を仕入れてから行くことにした。
「Nさんとこの牛はなんだったっけ?」と尋ねると、「ホルスタイン」と大声で答える。次に、先日孫が結婚したので「今度の孫のお嫁さんはどうだった」と尋ねたら、「ホルスタインじゃね(ではない)」と答えた大笑いになった。

2012年7月11日水曜日

ケガの功名

Nさんは怖い者知らずだ。誰にでも噛み付く。言い出したら聞かないから 家族も結局は折れる、と言うより 面倒くさがって相手にしない。先日奥様が急逝されたことで、彼に苦言を呈する人は かくしていなくなった・・・。そう、暴君なのだ。ああ、ピッタリだわ、この言葉。
今日 訪問したら 彼にさんざん振り回されながらも なんとか契約までこぎつけた、明日から開始になるディサービスについての文句を言いだした。

あそこは たいしたトコじゃないみたいじゃないか。
え?そんなことないよ、きっと楽しめると思いますが・・。
利用者が70人もいるわけないだろ、あの職員は嘘っぱちだ。
いえ、大きなディサービスですから それくらいの人数はいらっしゃいますよ。
人に聞いた話によるとロクでもない催ししかないって言うじゃないか。

また始まった。暴君、万歳(-_-)一緒に何件もさんざん見に行って アンタが決めたんやろ、と言いたいのをグッと堪える。

まぁ君に言っても仕方ないが、あんまりいい噂聞かないからな。しょーもないなら行くのは止めようかと思うんだ。

ああ、私も我慢が足りない。彼を担当してからこのかた四年も堪えていたのに この暑さと湿気で髪もボサボサでイライラしていたせいか、ついに彼に向かって怒られるのを覚悟で言いかえしてしまった。

その噂ってドコで聞いたんです?
彼は一瞬 え?と言う表情をしてから ドコって・・みんなが言ってるわ。
みんなって誰ですか?
そ、それは君に言う必要はないだろう。みんな言うたら みんなだよ・・。 彼はちょっとだけトーンダウン。
じゃあ、やめときますか。仕事じゃないし、気が進まないなら無理に行くことないですよ。
・・・でも それじゃあ君が困るだろう?
いえ、全く困りません。そんなお気遣いは要りません。よし、じゃあ 止めよう。ディサービスには私から電話して断ります。

彼は10秒ほど黙った。 長い・・、10秒って長いのね。そして おもむろに
まぁ明日は暇だし することもないから 行くだけ行くよ。

よしっっ(>_<)
彼の気が変わらないウチに一緒にディサービスに持って行くものの準備をする。 薬やタオルを手提げ袋に入れている彼の横顔を覗いたら 少し楽しそうに見えた。
暴君は笑ったら可愛い。

2012年7月10日火曜日

人生


警官から同僚のケアマネに電話があった。最近姿を見ていないと近所の人から通報があったが近況を知らないかという。数年前脳卒中で倒れてからショートステイを利用したが、その後は財産関係で兄弟間が疎遠になって、近所の人とも口をきかない生活を送っていたから介護保険も使わない状態だったという。名前を聞くと、30年も前からカメラの修理や写真の相談に乗ってもらっていた知人だった。


自宅前に行くと、鑑識や警官が集まって家に入ろうとしていた。ガラスを割って窓を開けると亡くなって数日経っていたと警官が教えてくれた。集まってきた近所の人たちは、人嫌いで、近所づきあいがない、意固地な人などと言い合う。ケアマネも、頑固で変人、他人との交流をいやがり部屋に入れてくれなかったという。


私の印象とは全く違う彼の評価だった。確かに几帳面で潔癖症だったが、それだからカメラの修理や調整を任せられた。カメラのこととなると、はにかみながら熱心に語る顔が思い出された。


私たちは、病気やけがで誰かの手助けが必要な状態になってからの人しか知らない。その前に、どのような表情で仕事をしていたのか、話しぶりや同様な声だったのか写真などからでもわからない。今までの生活を知らずに「その人らしい人生」と書くことが怖くなった。

臭い仲

家族に頼まれ、ショートから帰るのを利用者の自宅で待つことになった。鍵を預かっていたので 空気の入れ換えをしていた。この家には私の苦手な犬がいる。愛想がよく 足に纏わり付き、膝にすぐ乗ってくる、そして鼻息の荒い犬だ。フニフニフニフニと家の中をついて回る。私にも慣れてくれている、が・・・臭い、とにかく臭い(-_-) 彼がいるお陰で この家はペットショップ・・いや、動物園の臭いが立ち込めている。彼が出ていかないように シルバーカーをドアの開いた部分に挟め、気休めとは思いながらあまりの臭いに玄関を開け放してみる。 畳は所々が彼のトイレになっており、下手に踏むと足裏が濡れる。爪先立ちで歩きながら 家の中に干された洗濯物を片付けていた。 ふと気づくと フニフニ君がいない。 え?どこ行った? 彼の名前を呼んでみるが 返事はない。(元々返事はしないが・・) 玄関を見ると シルバーカーが少し傾いている。 あれ? もしかして脱走したか? でも塀で囲まれた家だから 敷地内にはいるだろう、と 裏庭に行く。
彼の名前を呼びながら裏に行くと・・げっ
、ヤバい・・裏は塀がないやん(@_@) 裏庭は いきなりヨソの家の敷地に続いていて そこには塀はなく、遥か遠く大通りまで見渡せる。 冷や汗が出始めた。 ヤバいヤバい・・フニフニ君が脱走したのは仕方ないとしても、この暑さの中、あの暑苦しい彼を探さねばならないのかと思うと 途方に暮れた。 このシルバーカー、全然役に立たないやん、と本来とは違う用途に使っておいて シルバーカーのせいにしたりして しばし現実逃避を試みる。 やだ、探しに行くなんて面倒くさい〜・・三分ほど放心状態でいたところに 荒い鼻息が聞こえてきた。 フニフニ君が帰ってきたのだ。 やだー、もう〜、ドコ行ってたのよ〜。ビックリしたじゃない。心配したんだからね〜と彼を抱き締める。 うわ、汚い。 どっかでまたオシッコしてきてる。 臭い〜。
ただいま、と言った(気がした)彼を初めて可愛いと思えた。そうだ、アナタとも もう三年の付き合いになるんだもんね。汚くて臭いけど 仲良くしてくれてありがとう。

2012年7月7日土曜日

嫁は辛いよ



透析を受けて寝たきりの父親を私は担当しているが、彼女の母親は癌の末期で施設と病院の往復。兄弟4人のうち二人は県外で近くにいる弟は父親のキーパーソンをしてくれている。彼女自身も乳がん手術の後遺症があるのに同居している義母は認知症で「嫁は使わないと損」と公言して、義理の叔父叔母の世話までさせる。ヘルパーの資格を取り認知症の介護を学ぼうと本やテレビを見ているから、義母の認知症が進むのは自分の介護方法が悪いのだと義母の暴言にも耐えている。



父親のケアプランの打ち合わせなのに、娘の話を2時間に聞いてしまった。介護を分担しなさいと助言しても、お義母さんはデイにも行かないし嫁がいるのにヘルパーにお金を払うなんてと聞く耳を持たない。「旦那は?」「すまない」とだけ言って自分の母親には何も言わない…。娘の思い詰めた表情に、義母の受診の際に医師からデイを勧めさせるよう作戦を教えたら、医師は本人にデイを勧めると同時にケアマネと相談員を呼びつけてその場で段取りしてくれたそうだ。



おかげで、母の付き添いができるようになりましたとお礼を言われたが、それでも看病したいのかと、怠け者のケアマネはあきれてしまう、のでした。

2012年7月4日水曜日

参りました

娘が買い物に行くと言うので ついでにお菓子を買ってきて、と頼む。 何がいいの?と聞かれたが、何が食べたいのか分からない。甘いもの?辛いもの?彼女は私が喜ぶお菓子を選んで買ってくるのが得意だから お任せすることにした。
彼女が買い物から戻り、テーブルの上に数種類のお菓子を置いてくれた。 これでいいかな?と娘。 梅味のポテチやら 甘辛のお煎餅やら ハイハイ、これこれ、こんなんが食べたかったんだー。 ふと見ると イチゴカプリコが一つだけある。 娘の目の前に置かれている。
ちょっと、何で自分の分しか買って来ないのよ(-_-) 大人げないわね。 と言うと、
あら、これ ママの分よ。
・・・大人げないのは私でした。