Nさんは怖い者知らずだ。誰にでも噛み付く。言い出したら聞かないから 家族も結局は折れる、と言うより 面倒くさがって相手にしない。先日奥様が急逝されたことで、彼に苦言を呈する人は かくしていなくなった・・・。そう、暴君なのだ。ああ、ピッタリだわ、この言葉。
今日 訪問したら 彼にさんざん振り回されながらも なんとか契約までこぎつけた、明日から開始になるディサービスについての文句を言いだした。
あそこは たいしたトコじゃないみたいじゃないか。
え?そんなことないよ、きっと楽しめると思いますが・・。
利用者が70人もいるわけないだろ、あの職員は嘘っぱちだ。
いえ、大きなディサービスですから それくらいの人数はいらっしゃいますよ。
人に聞いた話によるとロクでもない催ししかないって言うじゃないか。
また始まった。暴君、万歳(-_-)一緒に何件もさんざん見に行って アンタが決めたんやろ、と言いたいのをグッと堪える。
まぁ君に言っても仕方ないが、あんまりいい噂聞かないからな。しょーもないなら行くのは止めようかと思うんだ。
ああ、私も我慢が足りない。彼を担当してからこのかた四年も堪えていたのに この暑さと湿気で髪もボサボサでイライラしていたせいか、ついに彼に向かって怒られるのを覚悟で言いかえしてしまった。
その噂ってドコで聞いたんです?
彼は一瞬 え?と言う表情をしてから ドコって・・みんなが言ってるわ。
みんなって誰ですか?
そ、それは君に言う必要はないだろう。みんな言うたら みんなだよ・・。 彼はちょっとだけトーンダウン。
じゃあ、やめときますか。仕事じゃないし、気が進まないなら無理に行くことないですよ。
・・・でも それじゃあ君が困るだろう?
いえ、全く困りません。そんなお気遣いは要りません。よし、じゃあ 止めよう。ディサービスには私から電話して断ります。
彼は10秒ほど黙った。 長い・・、10秒って長いのね。そして おもむろに
まぁ明日は暇だし することもないから 行くだけ行くよ。
よしっっ(>_<)
彼の気が変わらないウチに一緒にディサービスに持って行くものの準備をする。 薬やタオルを手提げ袋に入れている彼の横顔を覗いたら 少し楽しそうに見えた。
暴君は笑ったら可愛い。

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