2012年10月16日火曜日

男らしさ

Nさんの両手の小指はない。腕には入れ墨がある。昔のことを尋ねてもなにも語らないのは脳梗塞の後遺症で構音障害があるためだけではない。胃瘻をしているからたびたび肺炎で発熱する。今度は、発熱だけでなく肺に痰が溜まって呼吸が苦しくなったから。病室をでは酸素マスクをして痛々しい。咳がひどくて声にならない。必死の形相でのどを指さし、両手で×をする。看護師さんが痰を吸引しようとすると、麻痺のある両手と足を激しく動かして抵抗する。「痛いからね。でも我慢しないとね」と言葉は優しいが、看護師さんは手加減しない。男らしく我慢しないとかっこよくないよと同行したケア○が声を掛けると、にこっと笑って平静をたもつ。「次に、鼻から取るからね」と鼻にチューブを入れようとすると、顔を振って逃げようとする。
ようやく終わって、呼吸が穏やかになってから、「我慢できない男はかっこよくないよ」とケアマネが声を掛けると、「痛いものは、男でも痛い」と弱々しく言った。

そのケアマネは福山雅治のファンで、今度出たアルバムのことを熱心に話す。
「ねぇ、知ってる。福山さんの髪の毛は僕と同じ右分けなんだれど」と言うと、Nさんより激しく咳き込んで笑う。翌日も、DVDを見ていたら、笑いが止まらなくなったと言う。そこまで笑うことではないと思うんだけど。

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